鍼灸の治療は、お灸で温めるツボと鍼を刺して刺激するツボをいろいろと組み合わせて治療に当たってくれますので、体の痛みはもちろん、しびれや麻痺、その他様々な体調不良に対応してくれます。

今回は、神経痛や自律神経失調のような、身体中に張り巡らされた神経系の不調に対してお灸や鍼治療で期待できる効果について見ていきます。
まずは、人の末梢神経と言われる体性神経系と自律神経系の2種類の神経系について、その特徴からです!
体性神経系の働きと障害
体性神経系はさらに運動神経と感覚神経に分けられます。
体性神経は自分の意思でコントロールできるのも特徴です。
体性神経の障害

脳自体や他の臓器に疾患があって、それが原因で現れる諸症状の1つとして神経に障害が出ることはもちろんありますが、ここでは除外します。
既往症や他の疾患がないにも関わらず、神経障害としてよく発生するのが神経痛です。

中でも坐骨神経痛、肋間神経痛、顔面神経(三叉(さんさ)神経)痛は耳にすることの多い神経痛です。
が現れます。
他の疾患がないにも関わらずこれらの神経痛が出てくるのは、加齢や長年にわたる特定動作の繰り返し、ストレスが要因となって、各神経周辺の組織が肥厚したり硬くなったりして神経を圧迫するものだと考えられています。
自律神経系の働きと疾患
自律神経系は自分の意思でコントロールできません。

これが体性神経系と最も異なる特徴です。
心臓を動かす、体温を36℃に維持する、決まった時間に眠くなる、食べ物を消化吸収するなど、自分の意思とは関係なく、体のあらゆる機能が乱れることなく一定の状態に落ち着くように常に働いてくれている神経系です。
自律神経系の疾患
自律神経系も、他の疾患が原因で現れる諸症状の一つとして障害されることもあれば、疾患が見当たらないにも関わらず不調に陥ることもあります。
自律神経系の障害(自律神経失調)が厄介なのは、他の疾患がない場合、病院にかかっても有効な治療法や薬がなく、体調不良が長期にわたって続いてしまう点です。

現れる症状はめまいや、不眠、食欲不振、熱感や悪寒を感じるなど多岐にわたります。
病院、クリニックでの治療
坐骨神経痛の場合、主な原因として腰椎ヘルニアや脊柱管狭窄症の骨格的異常と梨状筋(りじょうきん)症候群と呼ばれる筋系の異常が考えられます。

どちらの場合もまずは鎮痛薬や貼付薬、ブロック注射で痛みを消す治療から始まるでしょう。
骨格異常
骨格異常の場合は最終的に外科手術を選択することもできます。
ただし手術を受けたにも関わらず、痛みやしびれが完全には消えなかったという結果になる場合もあります。
痛みやしびれの程度や場所が変わっただけだったという話を、私の周りでも何件か聞いています。
梨状筋症候群
筋系異常の梨状筋症候群はどうかというと、痛みやしびれに対する対症療法に終始するのではないかと思います。
加齢などによって「体が硬くなってくる」と筋肉の柔軟性は低下してきます。

もちろん坐骨神経が隙間を縫うように通過する梨状筋の柔軟性も悪くなります。
坐骨神経痛
梨状筋の柔軟性が極端に落ちると梨状筋の隙間が狭まり、坐骨神経を挟むように圧迫し始めます。
こうして脚に現れる痛みやしびれが坐骨神経痛です。

鎮痛薬や緩い筋弛緩薬を服用することになるのでは、と思います。
若年層、中年層であれば生活習慣を見直すことで姿勢や骨格を正したり、筋肉の柔軟性を取り戻すことができますので、そうすれば薬も必要なくなります。
年齢が上がってくると、姿勢の改善や筋肉の柔軟性回復は期待しにくくなり、病院に通っても医師は神経痛を完治させるよりも生活に支障が出ない程度に抑えるようにするでしょう。
自律神経失調症
自律神経失調症では原因となる器官や疾患が見つからなければ、めまいや不眠、食欲不振など症状に合わせた対症療法を続けることになると思います。
鍼灸治療院での治療

坐骨神経痛に限らず、膝などの関節痛や腰痛、肩こりなどは、病院にどれほど熱心に通ってもきれいに解消したと思える人は多くないでしょう。
神経痛、関節痛などを患って鍼灸治療院を頼ってくる患者さんは、その多くが「整形外科で治療を受けても治らない…」と言うそうです。

内科医でありながら鍼灸師でもある治療家の方の経験によりますと、運動器疾患の治療に関しては西洋医学よりも東洋医学の方が多くの知見と多くの治療法があるそうです。
注)運動器疾患:骨や筋肉、腱など体を動かすことに関わる器官に起きる疾患
西洋の解剖学では存在しないものの、全身には十二経筋という筋肉のラインがあるそうです。
この十二の経筋の連絡・つながりがうまく機能している時に人はすべての運動が可能で、連絡・つながりの機能に停滞がある時=運動器疾患にかかっている時だそうです。
お灸と鍼治療で再度十二の経筋の連絡・つながりをきちんと機能するように調整すると運動器疾患は治るとのことです。
神経系の不調に対してお灸・鍼治療に期待する効果

鍼灸院での治療は坐骨神経痛の治療を例にしてお話ししました。
自律神経の失調に関しては現れる症状も程度も人によって千差万別で、病院で治療を続ける場合は個々の症状にあわせた薬を時には数種類同時に服用することにもなるでしょうが、鍼灸院では症状やその程度、加えてその人の体質によってまったく異なる治療方法になります。
完治をゴールとしたとき、
西側ルートと東側ルートの別々の道を通って、山の頂上(=完治)を目指す登山のようなものと例えてみたいと思います。

神経系疾患を持ちながら支障のない生活を送ろうと病院通いを続けていると、薬に依存する体になってしまわないか心配になってくるでしょう。
お灸と鍼の治療では、検査におけるX線被曝や造影剤投与もなければ、治療の期間中に薬を服用し続けることもありませんので最初から最後まで薬を飲まずに済みます。
私の知り合いの女性の方は極力薬を飲みたくないということで、季節の変わり目で全身の調子が良くないと感じるとお灸と鍼治療に何度か通って体調を取り戻しておられます。

また、別の高齢者さんは坐骨神経痛を感じると鍼灸治療院にしばらく通って治しておられます。
お灸と鍼の治療では薬のような即効性はあまり望めませんが、現代医学(西側ルート)で神経痛や自律神経失調が長引く時、東洋医学(東側ルート)で治療を目指してみると意外にすっきり治ることもありますので検討してみる価値はあると思いますよ!
参考文献 「運動器疾患の針灸治療」、西田皓一著、東洋学術出版社、2012年